衛生昆虫

衛生昆虫の微細構造について

 昆虫は地球上最大の動物種群で,その種類はすでに100万種以上が記録され,動物総種類数の70%以上も占めています。しかも毎年約数千種の昆虫新種が発見され,その推定種数は300万とも500万とも言われます。

 人類の出現以前に,昆虫は生物界の一員として大自然に静かに生息していたが,人類の出現および進化に伴い,一部の昆虫が人類の生活範囲に入り込み,人間の生活と密接な関係を結ぶことになりました。これらの昆虫は人間とのかかわりによって,カイコやミツバチに代表される益虫,バッタやウンカに代表される農作物を加害する農業害虫,ノミ,蚊など直接に人間を加害するものやゴキブリ,ハエなど病原体を伝播し,間接に人間の健康を脅かすものに代表される衛生昆虫(衛生害虫)に大まかに分けられています。

 20世紀以降,科学技術の急速な発展進歩により,人間の居住環境,生活条件の改善をきっかけに,衛生昆虫が人間生活に及ぼす影響がますます重要視されてきます。

 古くから「敵を知り己を知る」ことが戦争に勝つ極意として言われてきました。人間と衛生昆虫との「戦争」に勝つためにも,相手を詳しく知り,有効な駆除対策を打ち出す必要があります。しかし,我々の身近に生息し,我々にいろいろな実害を与えているこれらの衛生昆虫については,実際にどの小さな虫でも個体の維持と種の存続のために生息環境に対応して,我々の想像以上に精密かつ複雑な外部と内部構造を有することをご存じでしょうか?

 本ホームページに掲載されている「衛生昆虫の微細構造」は走査電子顕微鏡を駆使して,ミクロ単位で我々の身近にいる衛生昆虫の内・外部構造を可視的な画像で捕らえ,まとめたものです。衛生昆虫の防除関係者・研究者はもとより,昆虫または環境に関心をもたれる方々にも利用できるように配慮して,衛生昆虫の各器官の構造と機能をイラストと写真,電顕写真を用いて,できるだけ詳しく解説するつもりです。また,衛生昆虫の防除方法などは本書の主旨を超えたため,書中に一切触れていません。その分野についてはほかの専門書をご参考ください。

 本書のイラストや写真は著者自身で描き,撮影したものです。著作権は著者にあるが,ご利用は自由です。